検察庁法改正案で得するのは誰かを考えてみる

5月8日に国会で審議入りした検察庁法改正案。

これに対し、ネット上で「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグで、多くのツイートが行われるなど、反発の声が上がっています。

 

この中には、多くの芸能人や文化人も含まれていますが、なぜこれほどまでに反対意見が多く出ているのでしょうか。

 


まず、検察庁法改正で影響を受けるのは、当たり前ですが検察庁す。

では、そもそも検察とは何でしょうか。

検察と似た言葉に警察があります。

警察の役割はよく知られているとおり、犯罪が発生した場合、捜査を行い被疑者(犯人、容疑者)を逮捕したり、証拠を収集したり、取調べ等を行います。

警察は、被疑者を逮捕した後、被疑者を事件記録とともに検察官に送致しなければならないとされています。そして警察から被疑者が送致されてくるところから検察の仕事が始まります。


検察庁では、警察から送致された事件について、検察官が自ら被疑者・参考人の取調べを行うことができます。

さらに証拠の不十分な点について、警察を指揮して補充捜査を行わせることもできます。

捜査を行い、収集された証拠を十分に検討した上で、検察は最終的に被疑者について裁判所に公訴を提起するかしないかの処分(起訴するか、起訴しないか)を決定します。

この「被疑者を、起訴するか起訴しないかを決定する権限」検察最大の権力です。

さて、起訴されるとはどういうことでしょうか。

 


起訴されると、起訴された被疑者は、「被告人」という立場に変わります。


その後裁判を経て、有罪・無罪が決定されることになりますが、もちろん有罪の場合は前科者となります。

 


一方、起訴されなかった場合、被疑者に前科が付くことはありません。


言い方が少し悪いですが、どんなに悪いことをしたとしても、不起訴になれば犯罪者にはならないということです。



このとおり、検察の起訴・不起訴を決定する権力は超強力で、他人の人生を簡単に変えてしまう力です。


この力を使えば、極端な話、総理大臣を逮捕し、死刑を求刑することもできます。
過去に田中角栄首相が逮捕されたロッキード事件は有名ですが、ある意味検察のみが、政治の腐敗にメスをいれる力を持っているのです。


そのため検察には高い独立性が求められています。

 


さて、今回の検察庁法改正案の話に戻します。


改正案のうち、問題の火種となっているのは、「検察官の定年延長の決定権を内閣が握ることになる」という点です。


例えば、検察庁のトップは検事総長ですが、この検事総長ともなれば、世間でいうところの上級国民の待遇を受けることができます。

ただ偉そうにしているだけで末端職員の数倍の額の年収を手にし、検察内に自分の権力に勝てるものはいないため、文字通り部下に何でも要求できます。王様の様な立場です。

この王様の様な立場が定年でもうすぐ終わるという時に、内閣(首相)から、「定年を延長させてあげてもいいよ。そのかわり…」と言われたらどうでしょうか。

多少の要求であれば飲んでしまうのではないでしょうか。

 


この改正案が大批判の的になっている理由は、「検察の独立性が、内閣の手によって脅かされようとしている」からです。



今回の件について事実を追いかけてみましょう。


話は令和2年1月31日に遡ります。この日「検察庁ナンバー2」のポジションにある黒川弘務東京高検検事長について、内閣は「国家公務員法の規定に基づき、勤務を6か月延長する」と閣議決定ました。


「定年退官する予定だった方を、『わざわざ』閣議決定してまで任期延長させる」


まずこの時点で多くの方が「何で?」と思うのではないでしょうか


驚くべきことに、内閣は理由を示していません。理由はないけれど、わざわざ日本の政治家幹部クラスを集めて延長を決定したということです。


「あっそうなんですか。理由はないんですね~。」


とはなりません。


検察官は(改正前の)検察庁法で定年が63歳と個別に定められています。一般国家公務員と同じ定年制度にはとらわれないことになっており、過去に検察官の定年が延長された例は一度もありませんでした。


この日歴史上初めて、本来63歳の誕生日前日にあたる2月7日に定年退官する予定だった黒川氏の勤務期間が、半年間延長されたのです。理由は「特にありません」と言いながら…。

 


当然ですが理由はあります。内閣にはもっとこの人に検察庁にいてほしいという理由があったのです。

 


内閣が黒川氏継続にこだわった理由はとても単純です。官邸ととても近い位置にいる検察官だからです。


黒川氏は内閣側の人間であり、部下に公文書書き換えを指示し(後に部下は自殺)、「私は何も知りません。」と発言し、結果不起訴となった財務省・佐川前理財局長も、黒川氏の力で、不起訴を勝ち取ったと言われています。

 


「検察を抑えれば、内閣が犯罪を犯してその結果人が死のうが罪に問われない。」

 


このことに内閣は味をしめて、この無敵状態を継続させようとしているのです。


検察庁ナンバー2である黒川氏に引き続き勤務してもらい、引き続検察を自分たちの思うようにコントロールしたいということです


逆に言うと、黒川氏が退職した後の後任者は「内閣側の人間ではない」ので、人が変わっては困るということです。


(後任者も内閣側の人間であれば、わざわざ黒川氏を延長させなくても良いですからね。)

 

 


さて、このまま内閣の思い通りに法律が改正されるとどうなるでしょうか。


検察が内閣の思い通りになるということは、つまり、「総理大臣が何をやっても起訴されなく」なります。


どんなに悪いことを裏で行おうが、人が死のうが、自分は関係ないと主張し続ければ検察が不起訴にしてくれます。起訴されなければ犯罪者にはなりません。この究極の安全カードが内閣は欲しいのです。得をするのは内閣です。


裏を返すと内閣内の少なくとも誰かは、このままだと起訴されるかもしれないという心当たりがあるようです。

 


これだけあからさまに独裁者への道を作ろうとされてしまえば、批判する人がでてきて当然です。

 


また、今回改正案は内容も問題視されていますが、改正の過程もすごいです。改正するための理由付け(ロジック)がめちゃくちゃのです。

 


元々この検察庁法改正は、国家公務員法改正で国家公務員の定年が65歳になったことを根拠に、(同じ公務員だから)検察官も65歳にする(延長する)というロジックから始まっているのですが、実は過去の国会審議内で「国家公務員法上の定年は、検察官には適用されない。」とはっきり答えている答弁があるのです。

 

つまり国家公務員法改正は、この度の検察官の定年延長の根拠にはならないはずなのです。

 


それを指摘された内閣の言い訳がまたすごいです。

「口頭手続きで解釈を変えた」というのです。

 


そしてその「解釈変更手続きの記録はない(つまり議論すらしていない)」とのことです。


誰しもがまた思うでしょう。「何で変えたの?」と。

 


このロジックで国民の批判をかわしきれると思ったことがまずすごいですが、逆に考えるとこれほどまでに政府は、「国民をなめている」ということです。

「上級国民の俺たちの決定を、国民はどうせ止めることはできない。」
「しばらくはうるさいが、どうせすぐ忘れる。」

と思っているということです。

そして実際にそうなるかもしれません。

 


そんな中、「強い権力に対しては、どうすれば歯止めをかけることができるのか。」

 


多くの方がそう考えた結果、初めのツイートがどんどん拡散していったのです。

 


もちろんツイートには法的な権限はありません。ただ声をあげるだけです。これだけで内閣を止める力にはなりません。


ただ、昔はこのように声をあげるということすら、我々国民には許されていませんでした。
この声を大きなうねりに変えて、最終的に王様(と勘違いしている人)を止めることができるよう、私もこの記事を書くことによって力添えをしたいと思います。

私は「#検察庁法改正案に抗議します」。